「自律社会と内発的イノベーション」収録第2弾!|禅僧・藤田一照さんに聞く、自律的に生きるヒント(第1回/全3回)

自律社会と内発的イノベーション – 「人間の真の変容」から未来をひらく対話シリーズ
オムロン創業者・立石一真らが未来予測理論「SINIC理論」のなかで2025年から2032年まで続くと予測した「自律社会」。効率や物質的な豊かさを最優先とする社会から、自分の価値観と信念に根ざして生きる社会へと大きな転換点を迎えるなか、私たちはいかに「真の変容」を遂げていくべきなのでしょうか?
本企画「自律社会と内発的イノベーション」では、自らの内なる変容を経て世の中に新たな価値を生み出す“内発的イノベーション”を起こしてきた実践者たちをゲストに招き、「自律社会に求められる真の変容とは何か」を探っていきます🌏
今回のゲストは、禅僧・藤田一照さん。
アメリカで18年間坐禅指導を行い、現在は神奈川県の葉山を拠点に、坐禅会等を通じて禅の教えを伝えておられます。飾らないお人柄と鋭い洞察で、各界から厚い信頼を寄せられているお坊さまです。
自律と他律、守破離、キーネーシスとエネルゲイア、修行の本質、これからの教育のあり方など、「自律して生きるとは、どういうことなのか?」を考えるヒントが盛りだくさんの対談となりました!
以下、対談の内容を一部抜粋・再編し、全3回に渡ってお届けします。
なお、今回の対談は、同志社大学大学院ソーシャル・イノベーションコースの教授である中島恵理先生のご協力のもと、同大学のラーニングコモンズにて公開収録が実現しました!
当日の様子はぜひ本編動画をご覧ください。
ゲストプロフィール

ゲスト:藤田一照(禅僧)
曹洞宗僧侶、曹洞宗国際センター前所長。1954年、愛媛県新居浜市生まれ。東京大学大学院教育心理学専攻博士課程に在籍中、坐禅に出会い深く傾倒。大学院を中退し、禅道場に入山して得度。その後渡米し、以来17年半にわたってマサチューセッツ州ヴァレー禅堂で坐禅を指導する。2005年に帰国し、現在、神奈川県葉山を拠点に坐禅の参究と指導にあたっている。
本編動画(第1回/全3回)
収録:2025年7月5日
会場:同志社大学今出川キャンパス良心館 ラーニングコモンズ
案内人:松原明美(一般社団法人こころ館代表理事)
進行:李相烈(オムロン株式会社)
撮影:高橋弘康(オムロン株式会社)
協力:同志社大学 中島恵理研究室
1人の内面から始まる変化の連鎖「内発的イノベーション」とは?
松原明美(以下、松原):みなさん、こんにちは!本日は藤田一照さんとの対談にお越しいただきありがとうございます。本企画「自律社会と内発的イノベーション」の案内役をしています、一般社団法人こころ館代表の松原明美です。

松原:実は私、48歳の時に、ここ同志社大学大学院のソーシャル・イノベーション(SI)コースに社会人大学生として入学して、53歳で博士号を取りました。今回はSIコースの中島恵理先生のご協力のもと、こうして母校で公開収録ができることをとても嬉しく思っています。
一照さんのお話に入る前に、「自律社会」や「内発的イノベーション」という言葉について、みなさんも聞き馴染みがないかと思いますので少し解説させていただきますね。
まず、内発的イノベーションとは、私が博士論文で提唱した概念で、内側から湧き上がる動機に根ざした行動が、やがて志へと育って、人や社会にポジティブな影響を波及させていくプロセス全体を指す概念です。

内発的イノベーションの起点となるのは、1人1人のBeing(あり方)、つまり自分が大切にしたい価値観や志です。人は、自分の内なる動機に導かれて動き出したときに、無理のない自然な力が宿ります。
「誰かに言われたから」とか、外からのは評価からではなくて、こうありたい。こんな世界を作りたい。そんな自分の内側から湧き上がる思いに背中を押されて行動が生まれていく。
最初は小さな一歩かもしれません。でも、それを続けていくうちに、周りの人が少しずつ巻き込まれていって、気づけば人や社会がポジティブな変容を起こしている。そんな1人の内側から始まる変化の連鎖が、私が提唱した内発的イノベーションです。
人間が真に変容する時!? SINIC理論が予見する「自律社会」とは
李相烈(以下、李):続いて私の方から、「自律社会」についてご紹介させていただきますね。

李:「自律社会」という言葉は、弊社オムロンの創業者である立石一真らが、1970年に発表した未来予測「SINIC理論」の中に登場するワードです。
SINIC理論は、科学・技術・社会の相関性によっていかに社会が発展していくかを紐解いた理論で、オムロンはこの理論をもとに成長してきた会社と言っても過言ではないと思います。

「SINIC. media」より。SINIC理論の詳細が知りたい方は、ぜひ併せてご参照ください。
李:SINIC理論によると、2005年から続いた「最適化社会」が2025年で終わりを迎え、2033年までの8年間は「自律社会」という新たなフェーズを迎えると言われているんです。
【自律社会(2025年〜)】
人々がみずからを律しながら、自分に合った生き方を選び、他者とのつながりの中で心豊かに暮らす社会。共同体における意識的な管理に基づく社会から、ノーコントロールの自然社会(2033年以降)へ移行するために、社会の自律化が進むと言われている。
参考:https://sinic.media/sinic-action/2150/
李:ポイントは、この自律社会に生きる人は「真の変容を遂げる必要がある」と言及されている点。「困難も無く、自ずと秩序あるこの社会では、人々が弱体化してしまう恐れがある」、それは「人類の進歩の原動力となってきた困難への抵抗力が希薄化する社会となるから」と予測されています。だからこそ、人間が自律しなければならないと。

李:立石は「豊かさを獲得した人間は、内発的な動機に基づいて、自律的に利他性や全体最適への価値観や行動を身につけ、真の変容を遂げていく」と述べています。
松原さんが提唱する内発的イノベーションは、この人間の真の変容を促すひとつのアプローチになるのではないかと共通性を感じて、共同で勉強会をするなど、一緒に探究しているところです。
松原:「真の変容」と言ってもなかなかわかりづらいので、実際に内発的イノベーションを遂げている方の事例から学ぶ機会を作りたいと思い、このような対談を企画をさせてもらっています。
アメリカで18年間禅を指導、帰国後は「お寺を持たないお坊さん」に。独自の道を歩む禅僧・藤田一照さんとは?

松原:ということで、対談をはじめていきましょう!
今回は、禅の視点から、人間の真の変容について深掘りしていきたいと思います。ゲストは禅僧の藤田一照さんです、どうぞよろしくお願いします(拍手)
藤田一照(以下、藤田):どうも、よろしくお願いします。

松原:一照さんとは普段から親しくさせていただいていますが、改めて、どのような活動をされているのかを簡単に教えていただけますか?
藤田:33歳で渡米して、2005年までの18年間、アメリカ東海岸のマサチューセッツ州に滞在していました。そのまま帰国する予定はなかったのですが、50歳になった頃にある日本人の方から「葉山に別荘があるのだけど、そこでアメリカでやっている面白い禅指導をやってみないか」というお話をいただいたんです。それで、隠遁するぐらいのつもりで日本に帰国しました。
帰国してからは、お寺を持たないお坊さん(templeless priest)として生活しています。最初は知人もおらずゼロからのスタートで、本当に暇でしょうがなかったですね(笑)ただ、2011年の東日本大震災をきっかけに、禅の実践者として何かできることをしなければと感じるようになって。そこから、ご縁に任せて塾やワークショップを始めるようになりました。
生活の3つの柱「坐禅・学習・作務」
これまで、兵庫県の安泰寺、アメリカのマサチューセッツ、そして現在の拠点の神奈川県葉山町といろいろな場所で生活していますが、どの時代にも共通する生活の3つの柱があります。
1つ目は「坐禅」という宗教的な実践。2つ目は「学習」。これは知的な勉強だけでなく、武術の稽古なども含みます。そして3つ目は「作務」。要するに仕事や肉体労働ですね。アメリカでは、現金収入を得るために大工やベビーシッター、ペットシッター、引越しの手伝いから大学での講義まで、いろんなことをやりました。
状況に応じて比重は変わりますが、この「坐禅・学習・作務」の3本柱は失わないよう、そしてできるだけ偏らないように心がけていますね。
松原:一照さんの坐禅といえば、ソマティック(身体的)なアプローチを取り入れているところですよね。
藤田:そうですね。今、禅はあまりにも精神主義的に理解されていて、特にアメリカでは心理学や心理療法の一種のように扱われる傾向がありますが、それはちょっと違うのではないかと。
僕自身は「身体あっての自分」という感覚が子どもの頃からあり、今の潮流のカウンターとして身体性を重んじるような禅を自然と探究するようになりました。

club wilbe「坐禅はもっと身体的なもの?」
禅における自律と他律
李:ここからは、本日のキーワードである「自律」について質問をさせてください。まず、禅における自律や、自律的な生き方をしている人とは、どのようなイメージなのでしょうか?
藤田:自律という言葉は、坐禅の説明で僕もよく使いますね。
多くの場合、坐禅にはある種のマニュアル的なものが存在していますので、その通りに実践していきます。あるいは、先輩や先生にあたる人が「足はこっち、背中はまっすぐ」と指導して、習う人はそれを真似る。
これは、権威や外側の基準に自分を合わせていく他律的な行為だと僕は考えます。誰かが設定した正しさや、良いと言われるものに自分を合わせていくのは、他律なんですよね。曹洞宗の開祖・道元さんも、実は「それは坐禅じゃない」と言っているのではないかと。
そうではなく、自分の感覚に聞きながら、正しい姿勢や、正しい呼吸の仕方、正しい心のあり方を探っていく。昨日のいい姿勢が、今日もいいとは限らないですから。その都度、初心で未知を探究するのが、自律的な坐禅なのだと思いますね。外側の鋳型に自分をはめていくのではなくて、内側から生成していくイメージです。

NOBETECH「禅から考える”自律“とは? ~他律的思考から、自律的思考への転換~」
自律から「守破離」を考える
李:お話をお聞きしていて思ったのですが、いわば他律は“悪い守破離”のようなもの、ということでしょうか?
【守破離(しゅはり)】
日本の伝統的な武道や芸道における、修行の段階を表す概念。
守:師や流派の教えを忠実に守り、基本を身につける段階
破:基本に基づきながら、自分で考え工夫する段階
離:独自の新しい世界を確立する、創造の段階※ 公益社団法人日本空手協会の記事をもとに作成
藤田:守破離という言葉は「守」から始まっていますが、実際には「離」を先取りしているはずなんですよ。「守破離守破離守破離…」とダイナミックな入れ子の構造になっているイメージです。
本来、「守」は自分の感覚抜きにはできないはずです。
「守」を教える先生は、守破離を経験してきた人ですから、その先生が教える「守」は、本人にカスタマイズされた自律的な「守」なんですよ。
守破離ってよく使われる言葉ですが、本当の意味をよく考えないと、単純すぎる解釈になってしまうのではないかと感じますね。
こんなことは、今はじめて考えて、話していますけれども(笑)
李:とても面白いです。会場のみなさんも、たくさんうなずかれていますね。

第2回に続きます
次の記事のトピックス
・自律する人=”菩薩”!?
・「幸福への道はない」!?
・生活行為すべてが修行
・抵抗を手がかりに進む etc
さらに白熱する対談の様子を、どうぞお見逃しなく!
企画者紹介
案内人:松原明美
一般社団法人こころ館代表理事/博士(ソーシャル・イノベーション)
教育現場や企業での4000人以上のカウンセリングと大学院での研究をもとに、自分を深く知る自己認識メソッドを独自に開発し、自分のあり方を探究するBeingプログラム「わたし研究室」を開発。プログラムの受講者は国内外あわせて2万人を超える。自らの人生経験と20年以上にわたる独自のメンタリングセッションを通して「自分らしい生き方」や「本当に大切にしたいあり方」を見つけるサポートに取り組む。
こころ館ホームページ https://cocorokan.org/
進行:李相烈
オムロン株式会社 技術知財本部 ピープル&カルチャープロデュースセンター
ヒューマンリソースマネジメントグループ 主査
オムロン株式会社入社後、技術&商品開発や新規事業開発を経て、現在は人財開発を担当。自社の創業者である立石一真らが提唱した「SINIC理論」に感銘を受け、その魅力を社内外に伝えるべく啓蒙活動を展開する。個人がより輝き、活躍できるような人事制度の設計と運用を行い、人事データを活用した施策の企画と実装を行っている。





