世界50カ国を巡って見えてきた「幸せの本質」〜株式会社ワンピース取締役会長 久本和明氏に聞く|自律社会と内発的イノベーションvol.2

自律社会と内発的イノベーション ――「人間の真の変容」から未来をひらく対話シリーズ

オムロン創業者・立石一真らが未来予測理論「SINIC理論」のなかで2025年から2032年まで続くと予測した「自律社会」。効率や物質的な豊かさを最優先とする社会から、自分の価値観と信念に根ざして生きる社会へと大きな転換点を迎えるなか、私たちはいかに「真の変容」を遂げていくべきなのでしょうか。
本企画「自律社会と内発的イノベーション」では、自らの内なる変容を経て世の中に新たな価値を生み出す“内発的イノベーション”を起こしてきた実践者たちをゲストに招き、「自律社会に求められる真の変容とは何か?」を探っていきます。

今回のゲストは、兵庫県加古川市に本社を構えるアパレル企業「株式会社ワンピース」の創業者であり、現在は取締役会長を務める久本和明さん。22歳で年収1000万円を達成し、その後も会社の売上は5億円、10億円、20億円と成長を続けてきました。しかし、物質的な成功には幸せを感じられなかったという久本さん。現在は会社運営を従業員に任せ、「本当のしあわせ」を探究するべく世界各国を巡っている久本さんに、リトリート主催中のバリにてお話をうかがいました。(聞き手:松原明美)

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バリリトリートの移動車中でインタビューに応じて下った「かずさん」こと久本和明さん。

プロフィール

ゲスト:久本和明(株式会社ワンピース 取締役会長)

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株式会社ワンピース 代表取締役会長/ぐるり 発起人
明治大学中退。株式会社ジェイブレインでインターン後、21歳で独立。23歳でオンラインファッション通販を立ち上げる。社会全体の幸せを目指して生きていく中で、会社や組織のあり方に疑問を持ち、上下関係なし、指示命令なしのティール組織を実践。100年後の未来のために、必ずしもお金を必要としない世界づくりのため、ぐるり(物々交換コミュニティ)や服の交換会コミュニティスタート。会員1万人。全国で参加者2万人にのぼる。
Instagram https://www.instagram.com/kazu.hisamoto/

聞き手:松原明美(一般社団法人こころ館 代表理事)

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一般社団法人こころ 館代表理事/博士(ソーシャル・イノベーション)
教育現場や企業での4000人以上のカウンセリングと大学院での研究をもとに、自分を深く知る自己認識メソッドを独自に開発し、自分のあり方を探究するBeingプログラム「わたし研究室」を開発。プログラムの受講者は国内外あわせて2万人を超える。自らの人生経験と20年以上にわたる独自のメンタリングセッションを通して「自分らしい生き方」や「本当に大切にしたいあり方」を見つけるサポートに取り組む。
こころ館ホームページhttps://cocorokan.org/

家族に学んだ「お金があっても幸せとは限らない」

松原:かずさんは、「日本を幸福度の高い国へ」というスローガンを掲げて、経営者の肩書を超えたいろんな取り組みをされていますよね。しあわせを追求するようになったきっかけは何だったんですか?

久本:幼少期から家族や親戚の不和を目の当たりにしてきたのがきっかけです。もともと私の家は、父が会社を立ち上げ、母も整体などの事業をやっていて、裕福な方でした。中学生の時には2億円ほどの10LDKの家に住むようになりまたが、家族や親戚の争いが絶えず、全然幸せではありませんでした。
お金があっても幸せになれるとは限らないことを早くから悟ってしまい、「何が幸せの根源なんだろう」という問いを、幼い頃から漠然と持ち続けていましたね。

そんな家庭環境から抜け出したくて、東京に出たり、自分自身も起業をしたりしました。

大学中退、起業、事業拡大…順調な日々の中で生まれた葛藤

松原:ご自身も若くして起業されていますよね。明治大学を中退してからは、22歳の時点で年収1000万円を達成していたとか。
会社経営は順調でしたか?

久本:ある程度までは順調に売り上げが伸びましたね。その時に「あれ、自分って改めて何がしたかったんだっけ」と立ち止まる瞬間があって。そこから1年ぐらい内観する日々が続きました。会社は成長しているけれど、これが本当に実現したかったことだったかな?と。

そうして考えた挙句に出てきたのが、「人々の毎日の幸せ」というキーワードです。日々の中で感動や喜びが感じられる、そういう社会を自分はつくりたいんだなと思って。

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松原:幸せを特別なものではなく、日常の当たり前のものにしたかったんですね。

久本:その志が明確になってきた時に、あるインドの経営者の方が「社会全体の幸せをつくるには、スタッフや日々働いている人が幸せじゃないとその先まで届かない」ということをおっしゃっていたんです。
それを聞いて「ああ、できてないな」と。ずっとお客さんのことばかり見てたけど、目の前のスタッフたちにエネルギーを送ることから向き合ってみようと思いました。

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社内イベントの様子

自分と人のマインドに向き合ったら、組織がさらに成長した

久本:ところが実際に目を向けてみたら、組織内に不穏な空気や不信感が蔓延していたんです。創業期はスタッフの仲も良く、順調だったはずなのに、気づいたら組織づくりに問題が生まれていて、「これはいかん」と。

松原:そんな時期があったんですね。

久本:当時は会社を設立して7〜8年目で、売上が5億円程度、社員数は40名程度と数字的には順調に成長していました。それでも、いつしか組織の人間関係が上手くいかなくなっていた。

その原因を探って行ったときに、経営者である自分自身のマインドに行きつきました。「売上を上げたい、結果を残したい」というエネルギーが強くて、どうしても経営の中核をスタッフに任せれなかったんです。「自分の方がうまくいく」とか、こだわりもいっぱいあったし。トップダウンでやっちゃってました。

それで気持ちを入れ替えて、多少売上が下がってもいいから、人に向き合おうと決意しました。それまでは、90%の時間をパソコンと向き合っていたんですが、そこから1〜2年間は90%の時間をスタッフと話すことに費やしましたね。

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松原:その覚悟を決めたんですね。実際、どうなりましたか?

久本:売上が伸びました。伸びまくりです(笑)

松原:えー!すごい(笑)

久本:スタッフと話すときに自分が意識したのは、その人の光る部分を引き出すことなんです。そうしたら、私が思ってもいないような力をスタッフが次々と見せてくれるようになりました。

例えば、会社に対して文句ばかり言っていたパートの女性社員がいたんですが(笑)その方のエネルギーの高さに光るものを感じていたので、彼女の「もっとこうした方がいいんじゃないか」という意見に対して、「じゃあやってみませんか」とそのエネルギーをプラスに持ち上げてみた。

そうしたら、すごいブランドを作ってくれて。結果的にそのブランドは、会社の2つ目の柱になるようなブランドに育ちましたね。

松原:今では、リーダー不在でも自律自走する組織を体現されていますよね。そんな葛藤を経て今の会社があること、とても興味深いです。

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久本さんが編み出した経営スタイルの詳細は、著書『僕たちはみんなで会社を経営することにした』をご覧ください。

世界50カ国から学んだ「幸せの本質」

松原:最近は第一線を退かれて、世界各国を巡っているそうですね。

久本:「人々の毎日の幸せ」を生み出したいと志すなかで、アパレル以外の事業も挑戦しようとしたんですが、他のジャンルでは上手くいかなくて。それでまた悶々と内観する日々を過ごしていたのですが、ある時に「これは『あなたは会社を出ていきなさい』ということではないか」と思ったんです。

そこで、これまでいたビジネスの世界を離れて、必ずしもお金を必要としない世界づくりのために「ぐるり(物々交換コミュニティ)」や服の交換会コミュニティを始めました。

そのプロジェクトもひと段落したので、次はもっと世界を見てみようと思い、半年ほどかけて世界50カ国を巡ってきました。

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世界各国の幸せのヒントが詰まっている久本さんのInstagram

松原:幸せについて、実際にどんな発見がありましたか?

久本:ひとつは、人を大好きでいられる感覚が残っている場所では、幸せのエネルギーが高く感じたということです。日本は他国に比べて「家族を大事にしなきゃいけない」という義務感が強いのかなと。でも他の国では、ただシンプルに大好き。動物を可愛がるように、人のことも大好きという感覚が残っていると感じました。
特にバリやフィリピン・カンボジアは印象に残っていますね。「その人が大好き」と言える感覚そのものが、幸せの一部にあるのではないかという仮説が立ちました。

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では、その感覚を支えるものは何かと考えた時に、共通しているのは宗教の存在ではないかと。フィリピンならキリスト教、マレーシアやインドネシアはイスラム教。キリスト教圏では毎週教会に行って祈り、心の勉強をしている。タイやカンボジアに行けば、ほとんどの男性が出家の経験があるほど仏教が浸透している。

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さらにヨーロッパでは、宗教の代わりに人権やデモクラシー(民主主義)という思想が、個人個人の中に根付いています。デンマークでは「生まれながらにして、あなたは自由という権利を神様からいただいている」と教わるそうで、現地の人は「母乳の中にデモクラシーがある」と表現していました。
自分を大事にすること、そして、自分を大事にするかのように人の気持ちも尊重するという「自由の相互承認」が人々の中で共有されているんですね。
そうした拠り所となる思想があることも、幸せに影響しているかもしれません。

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日本人の幸福感を取り戻すために

松原:日本人の幸福度が世界的にも低いことは、いろいろな調査結果からもわかっていますよね。

久本:肌感でもそうだと思います。でも、同じ調査を江戸時代にしていたら、違う結果だったかもしれませんよね。
江戸時代には、神道、仏教、儒教が精神的な拠り所だったわけですが、明治維新、戦後と経てそのバランスが崩れてしまった。日本は他国と比べて、精神的な支柱が弱いところはあるかもしれません。

松原:日本人の幸福度を取り戻すために、今からかずさんが取り組もうとされていることがあれば、最後に教えていただきたいです。

久本:今からもう一度、日本人の精神的な支柱を復活させていくことは大切だと思います。それは、仏教や神道・スピリチュアルなどの世界にヒントがあるかもしれないし、コーチングやカウンセリングでもいいかもしれない。まだ方法はわかりませんが、世界各国の知見をミックスさせながら、自分自身もどんどんトライしてみたいです。

今、いろんな場所を旅をしているのも、最終的には日本の幸せに貢献したいから。日本人の幸福感を、ちゃんと取り戻したい。そして、人々の魂を輝く状態に戻すことができたらと思っています。
それが自分の使命であり、魂がやりたいことなんだと思います。

松原:まだまだ聞き足りないですが、続きは日本に帰国してから、改めて取材させて下さい!貴重なお話をありがとうございました。

久本さんの真の変容と内発的イノベーションの体験談については、後日改めてお話を伺い、動画配信する予定です。次回の更新をどうぞお楽しみに!

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かずさん、ありがとうございました

本記事は、一般社団法人こころ館のnoteより転載したものです。
元の記事:https://note.com/cocorokan_now/n/nc98e2d11068c

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